よくある質問
よくある質問
信販会社から遠方の裁判所に裁判を起こされたら?
トヨタファイナンスから起こされた裁判の移送が問題になった裁判例です。
東京地方裁判所令和2年2月26日決定です。
移送決定に対する即時抗告事件です。
遠方で裁判を起こされ、尋問等が予定されるような事件では、移送を検討することも多いです。
事案の概要
トヨタファイナンスが原告となり、消費者に対し、立替金の訴訟を起こしました。
裁判所は東京簡易裁判所。
この立替金請求訴訟について、消費者である被告の住所地を管轄する裁判所は福井地方裁判所でした。
被告から、そこへの移送の申立がありました。
東京簡易裁判所の判断
東京簡裁は、令和元年12月19日決定で、この移送を認めました。
基本事件の全部を福井地方裁判所へ移送するとの決定です。
基本事件の概要
移送の必要性について、裁判所は、次のような事件の性質がある点を取り上げました。
基本事件は、相手方が、平成22年4月8日に申立人との間で締結したクレジットカード契約(相手方に代金等の立替払いを委任することで、申立人が相手方の加盟店等から商品の購入や役務の提供等を受けられるショッピングサービス及びキャッシングサービスが附帯されたもの)に基づき、申立人に対し、同ショッピングサービスに係る年会費1350円と、申立人が平成31年4月26日に加盟店「クラブイブ」で利用した代金60万円の合計金60万1350円及びうち1350円に対する令和元年8月9日から支払済みまで年14.6パーセントのうち60万円に対する同日から支払済みまで年6パーセン
トの各割合による約定遅延損害金の支払を求めたという事案でした。
東京簡裁の判断理由
移送を認めた理由について検討していきます。
申立人の主張は、一件記録によれば、要するに本件請求の背景事情として、申立人が、いわゆるホストクラブである「クラブイブ」を経営するAに、同クラブでの飲食のツケ払いを強要されたり、新たに申立人名義のクレジットカードを複数枚契約させられ、同クラブでの飲食に利用したか
のように決済処理をされたり、その他Aから半ば強要される形でクレジット会社に対する多額の債務を負担させられたりといった事実があり、本件請求はこれらの事実の一端であって、申立人は、平成31年4月26日にクラブイブにおいて、60万円分の商品の購入又は役務の提供は受けていないというものでした。
ホストクラブがらみの代金で、内容を否定しているという事実があったのです。
ところで、相手方のカード会員規約第26条では、「会員は、本規約について紛争が生じた場合、訴額のいかんにかかわらず、会員の住所地、購入地および当社の本社、支社、支店もしくは営業所の所在地を管轄する簡易裁判所および地方裁判所を専属の管轄裁判所とすることに同意します。」と定められているところ、この文言に照らせば、基本事件における当事者間の合意管轄は、相手方の営業所の所在地を管轄する当裁判所に認められるほか、相手方のカード会員である申立人の住所地及びクレジットカードを利用した加盟店(クラブイブ)の所在地を管轄する福井簡易裁判所及び福井地方裁判所にもこれが認められるというべきであるとしました。
裁判の見通し
そこで、本件移送申立てについて検討するに、申立人は、本件請求につき答弁書を提出していないものの、主張を前提とすれば、本案において、請求棄却を求めるとともに、支払停止の抗弁権の主張及び同様の主張をするものと推認できるところ、これを審理するには、申立人とクラブイブとのつながり、Aとの関係性及びAの違法行為の有無等について丁寧に事実認定をすることが求められ、相当回数の主張整理の期日を要するのは避けられないというべきです。
加えて、申立人の応訴方針から推認できる攻撃防御方法に対する判断や、仮にAの違法行為が認められたとした場合の当該行為と本件請求との関連性及び本件請求の可否についての判断については、相当程度、その難度は高いものと推認でき、この判断を行うには、任命資格のより厳格な地方裁判所の裁判官において行うのが相当だと考えられるとしました。
そうすると、基本事件の審理は、簡易な手続により迅速に紛争を解決することを目的とする簡易裁判所の手続にはなじまないというべきであって、合議制も採用している地方裁判所においてこれを行うのが相当だというべきであるとしました。
簡易裁判所ではなく、地方裁判所で審理すべきであるとの判断です。
また、本件請求に係る事案の内容等に鑑みれば、争点整理手続では、相手方よりも、上記の背景事情に知悉している申立人又は申立人代理人らが裁判所に直接出頭し、その事情の説明を裁判所に行った上で争点整理を進めた方が、民事訴訟における事案の解明に資すると考えられ、加えて、その審理においては、Aと申立人の尋問手続は避けられないものと認められるが、申立人自身の証言はもちろんのこと、Aの証言も本件請求の帰趨を決する上で重要な証拠となり得るのは疑いがないというべきです。
そうすると、Aと資力に余力がないと認められる申立人はいずれも福井市に居住しているから、東京よりも福井市所在の裁判所で基本事件を審理した方が、同人らの出頭の確保の点では円滑な訴訟進行に資すると認められ、基本事件については、訴訟の著しい遅滞を避け、当事者間の衡平を図るために福井地方裁判所で審理するのが相当だというべきであるとしました。
相手方の不利益検討
一方で、トヨタファイナンス側の不利益も検討しています。
そして、相手方は、名古屋市に本店を置き、全国に事業を展開する一般企業であるところ、基本事件を福井地方裁判所に移送したとしても、上記の事案の内容に照らせば弁論準備手続に付されることが予想され、この場合、電話会議による弁論準備手続(民訴法170条3項)を利用することができるわけであるから、相手方には特段大きな不利益は生じないと考えられるとしました。
このような理由で移送を認めたものです。
東京地裁の判断
東京簡裁の移送決定に対し、トヨタファイナンスが不服として即時抗告をしました。
トヨタファイナンスは、原決定に係る移送を認めなくても、訴訟の著しい遅滞や当事者の衡平上も問題ないと主張。
しかし、東京地裁も、簡易裁判所の決定を指示し、即時抗告を棄却。移送を認めました。
地域間での移送であるとともに、簡易裁判所から地方裁判所に直接の移送を認めたという点が特徴です。
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