奨学金の消滅時効期間、起算点、法改正の影響について解説

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Q.奨学金の消滅時効は?

長い間、借金を支払っていないと払わなくても良くなる消滅時効の制度。

これは、奨学金にも適用されます。ただし、消費者金融やクレジット会社の借金とは異なる性質があるため、簡単ではありません。

今回は、奨学金の消滅時効の問題点を解説していきます。

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.7.24

 

奨学金の消滅時効とは?

消滅時効とは、一定の期間、債権者が自己の権利を行使しないでいると、その権利が消滅するという制度です。

奨学金の場合、発生時期によりますが、昔の奨学金では、消滅時効期間は通常10年間です。つまり、奨学金の返済を10年間行わないと、法的にはその債務が消滅する可能性があります。

しかし、消滅時効の適用は自動的には行われず、債務者が消滅時効を主張することで初めて適用されます。これを消滅時効の援用と呼びます。

また、消滅時効の期間は、債権者が債務の返済を求める行動をとった場合や、債務者が債務の存在を認めた場合などに中断され、再び始まります。中断は、法改正により、更新と呼ばれるようになっています。

 

 

 

奨学金の未払い問題

不況が続く中で、奨学金を頼りにする家庭が増えてきています。

貸与型の奨学金では、借金と同じですので、多くの学生は就職後に自分で奨学金を返済します。

しかし、終身雇用の減少、新卒の早期退職、非正規雇用の増加など、社会の変化により奨学金の返済ができず、滞るケースが増え、奨学金の未払い問題が深刻化しています。

奨学金は、一般的な債権と同じく、昔の奨学金については、民法に基づき10年間で消滅時効が成立します。消費者金融等の借金の消滅時効は、商事債権として以前から5年という期間でしたが、奨学金は利益を求める性質ではないため、民法の適用により10年間とされていました。

ただし、奨学金は利益を追求する目的のものではないため、返済期限に関する規定がないか、または明確でないことが多いです。

そのため、通常は各返済期日ごとに消滅時効の計算が始まり、その計算方法は一般的なものとは異なります。

さらに、契約に連帯債務者や連帯保証人が関与している場合もあり、その場合は消滅時効が完全に成立するタイミングが複雑になることがあります。

したがって、まずは奨学金を借りている機関の返済規定を確認することをお勧めします。

 

 

 

奨学金の消滅時効について

日本学生支援機構(以前は日本育英会)を含む奨学金にも、消滅時効のルールは適用されます。

奨学金というと、絶対に返済しなければならないという印象が強いかもしれませんが、住民税や所得税などの公的な税金とは異なります。奨学金は通常の貸付金と同様に、一定の期間返済がなされないと消滅時効が適用されます。借金と同じです。

ただし、消滅時効の期間は、消費者金融やクレジットカード会社からの借金の5年とは異なり、一般的な債権(個人間の貸借など)と同じく10年とされています。

地方公共団体からの奨学金も同様に、10年で消滅時効が成立します。

ただし、10年の消滅時効期間が経過する前に、日本学生支援機構が訴訟を起こしたり、支払いの督促を行ったりした場合、返済をした場合には、消滅時効は中断(リセット)されます。

消滅時効の中断(リセット)事由が生じた場合、それまでの消滅時効期間が一度リセットされ、その後再び10年間が必要となるという意味です。

 

法改正後の消滅時効期間

2020年4月1日に施行された改正民法により、消滅時効期間が変更となりました。

改正後の民法166条では、権利行使できると知ったときから5年とされています。そのため、2020年4月1日以降に借りた奨学金の消滅時効期間は、基本的に5年になると考えて良いでしょう。

本記事作成時点では、この時期の奨学金の時効問題は発生していないため、10年を前提とした記載としています。

 

 

消滅時効の起算点について

消費者金融などの借金の場合、支払が複数回遅れると、期限の利益を喪失する、一括払いになる契約になっています。借金全体に対して、消滅時効期間がスタートする起算点は、このように期限の利益を喪失して「支払わなければならない」状態になってからです。

支払を止めて5年というのは、厳密には間違えており、最終の返済から、2回程度、怠り、一括支払いの義務が発生してから5年というルールです。

期限の利益を喪失していない場合には、まだ払わなくても良い状態、債権者はまってくれている状態なので、時効期間も始まらないのです。

 

消費者金融やクレジットカードはほとんどがこのような条項になっているため、消滅時効の起算点もさほど問題になりません。

 

奨学金の消滅時効の起算点

これに対し、奨学金は利益追求を目的とした貸付けではないため、返済が滞っても借り手が一括で請求される期限の利益喪失の特約がないことが多いです。

そのような場合、消滅時効が始まる起算点がいつになるのかが問題となります。

もし、期限の利益喪失の特約がない場合、奨学金の消滅時効は各回の分割返済金の返済期日ごとに個別に進行すると考えられます。

この点は、一般的な貸金業者の借金の消滅時効が、全体の金額に対し、一律に最後の返済から進行するのとは異なるため、注意が必要です。

期限の利益喪失がないなら、各回の遅れた部分だけが時効期間スタートとなり、消滅時効が援用できたとしても、一部の支払い義務だけが時効により消え、10年経っていない場合には支払い義務が残っているということになるでしょう。

 

日本学生支援機構が遅延した奨学金の支払を請求する際には、すでに消滅時効期間が経過した部分も含めて請求します。

その場合、請求額全額が消滅時効にかかっていなくても、すでに消滅時効期間が経過している部分については、消滅時効の援用を行うことで支払い義務を免除することが認められるはずです。

 

保証会社と消滅時効

奨学金を借りる際に、親族の保証人などの代わりに「機関保証制度」を利用している人もいるでしょう。

この機関保証制度を利用している場合、返済が滞ると、保証機関である日本国際教育支援協会が日本学生支援機構に代わって返済を行います。代位弁済と呼びます。

これにより、保証機関が返済請求権を取得し、返済を求めます。

この場合、保証機関が代わりに返済した日、代位弁済日が消滅時効の起算点となります。

請求を受けた場合には代位弁済日から10年以上経過しているかどうかをチェックし、消滅時効の中断(リセット)事由がなければ、消滅時効の援用をできる部分があるということになります。

 

親族保証人の消滅時効

親や親族による保証がされている事例もまだまだ多いです。

消滅時効と保証の関係について言えば、すでに消滅時効期間が経過している場合、主債務者である利用者だけでなく、保証人も消滅時効の援用が可能とされています。

主債務の消滅時効が成立した場合、保証人の支払い義務も消滅します。保証人の債務は、主たる債務に付随する性質を持つため、主債務が消滅すれば、保証債務もなくなります。

 

なお、保証人が債務を認める債務承認の効果は、個別的と言われます。主債務の消滅時効への影響はないとされています。そのため、保証債務が承認されても、主債務の消滅時効は中断(更新)されず、保証人が返済を行っていても、主債務者は消滅時効の援用が可能という理屈になっています。

 

また、日本学生支援機構では、連帯保証だけでなく、通常保証も利用されています。

連帯保証では、全ての連帯保証人が全額を返済する義務を負います。

一方、通常保証では、保証人は保証人の数で割った金額を返済すれば良いとされており、これを「分別の利益」と呼びます。

しかし、日本学生支援機構から通常保証人に対して、遅延損害金が全額請求されることがあります。

そのような場合でも、消滅時効が援用できなくても、保証人が複数いる場合は、通常保証人は分別の利益を主張し、保証人の数で割った金額を支払うことが可能です。

 

 

裁判上の請求に注意する

奨学金を9ヶ月以上滞納している場合、日本学生支援機構は借主に対して一括返還を求めてきます。その一括返還に応じなかった場合、裁判所に申し立てを行う可能性があります。

裁判所からの支払督促が届いた場合、期限内に異議を申し立てないと強制執行が行われます。給料や預金口座が差し押さえられる可能性があるため、注意が必要です。

 

奨学金の取り立てが厳しくなっている

奨学金が滞納されている現状を受け、奨学金事業を運営する日本学生支援機構は、滞納金の回収に力を入れるようになりました。

債権回収会社に委託して、滞納者に対して一般的なクレジットカードやローン会社と同様の督促を行うようになりました。

さらに、信用情報機関に加盟し、奨学金を滞納した人の情報を金融事故として登録するようになりました。3か月以上未払いが続くと、信用情報に記録が残ります。

いわゆる「ブラックリスト」に記載され、完済してから最低5年間は新たにローンを組むことができなかったり、クレジットカードを作成できなくなったりするため、注意が必要です。

奨学金の取り立てが厳しくなり、奨学金破産という言葉が出た時期もありました。

 

消滅時効が難しく、奨学金の支払が全くできない人、他にも借金がある人は、債務整理のなかで、個人再生、自己破産をする人も多いです。

保証人がいる場合には、そちらに迷惑がかかってします。

 

奨学金の消滅時効例

奨学金については、民間の金融機関よりも時効管理がされる傾向にあります。

時効になる前に裁判等の時効を止める手続きがされることが多いです。それでも、消滅時効の援用が認められている事例もあります。

一部の奨学金の消滅時効が認められた裁判例を紹介します。

 

東京地方裁判所平成29年3月23日判決です。

奨学金の滞納があり、452万1300円と遅延損害金の請求裁判が起こされた事例です。

奨学金契約に基づき、返還期日が経過した元本242万円、繰上げ返還に係る元本121万8000円、確定遅延損害金88万3300円の合計452万1300円の請求です。

 

奨学金の借入、合意内容

日本育英会は、被告に対し、第一種奨学金を次のとおり貸与。
ア 平成3年4月から平成4年3月まで 月額 8万6000円
イ 平成4年4月から平成7年3月まで 月額10万6000円
合計484万8000円

なお、日本育英会奨学規程20条3項によれば、割賦金の返還を怠った者に対しては、原告が指定する期日までに返還期日未到来分を含む返還未済額の全部を一括して返還させることができるとされていました。


被告は、平成7年3月31日、日本育英会に対し、本件奨学金につき、平成7年12月から平成26年12月まで毎年12月末日限り、年額24万2000円(ただし、最終回は25万円)ずつ(20回)返還すること及びこの返還を延滞したときは、各遅滞した元本について返還日の翌日から返還済みまで延滞期間が6か月を超えるごとに、その6か月について5%の割合による延滞金を支払うことを合意。

延滞金の賦課率は、平成26年3月31日付け日本学生支援機構業務方法書の改正により、平成26年4月1日以降に新たに賦課される延滞金の賦課率については、6か月を超えるごとにその6か月について2.5%に変更。

被告は、本件奨学金につき、平成9年12月12日、平成10年12月24日、平成11年12月13日、それぞれ24万2000円を、日本育英会に対して返還した。

原告は、平成28年3月19日、被告に対し、返還期日が到来していない121万8000円も含めて本件奨学金の残額を同月31日までに返還するよう請求。
原告は、平成28年8月25日、被告に対し、本件奨学金の返還を求めて支払督促を申し立て。
被告は、平成28年9月13日、督促異議を申し立て。

被告は、平成28年11月17日に開かれた第1回口頭弁論期日において、原告に対し、本件奨学金債権につき消滅時効を援用する旨の意思表示をしました。

 

返還期限の変更合意が争点

被告が、原告に対し、本件奨学金の返還が平成12年12月からとあるのを平成16年12月からとするよう求め、原告がこれに応じたかどうかが争点でした。

奨学金の消滅時効は、期限の利益があるため、個別に進行します。

そのなかで、平成12年12月から数年間の部分について、平成16年12月まで猶予するよう合意があったのであれば、消滅時効は、期限が過ぎた平成16年12月からスタートすることになります。

このような合意がないのであれば、原則どおり、個別に進行するので、平成12年や13年の分は消滅時効の援用により支払義務がないことになります。

今回の問題点は、猶予の話をしていたのは、被告の妻でした。それは、被告が刑事事件により服役していた時期でした。

この被告の妻による猶予申出が、被告の行為になるのか、代理権があったのか等が問題になりました。

 


【原告の主張】

原告は、被告の申入れにより、平成12年12月からの本件奨学金の返還を平成16年12月からの返還に繰り延べた。

被告の当時の妻が、被告に代行して、本件奨学金の返還の猶予を申し入れ。

被告は、妻に対して金融機関に対する支払猶予を含めた対応を任せており、妻が原告に対して服役中の被告から依頼を受けたとして本件奨学金の返還の猶予を申し入れた場合、原告担当者がこれを疑うべき理由はないから、民法110条の表見代理が成立すると主張。

 

【被告の主張】

被告は、妻には、銀行とリース会社との対応の窓口になることを任せたことはあるが、対応は実質的には被告の刑事事件の弁護人であった弁護士が行っていた。

また、被告は、妻から本件奨学金について話しをされたこともなく、本件奨学金の猶予を申し入れる権限を与えていない。

電話等も否定。

 

裁判所は返還時期変更合意を否定

原告は、被告が、平成12年12月頃、日本育英会に対し、本件奨学金の返還の猶予を申し入れた旨主張。
しかし、原告担当者の個人メモにもその旨の記載はなく、これを認めるに足りる証拠はないとして、本人による返還猶予申し入れの事実は否定。

問題は、妻による代理での猶予申し入れの法的効果でした。

原告は、妻が、被告を代理して、平成14年及び平成15年に、原告に対し、本件奨学金の返還の猶予を申し入れた旨主張。
裁判所は、妻が返還猶予の申し入れをした事実は認定

しかし、妻が自らの判断で行動した可能性も否定できず、被告が妻に対して本件奨学金の返還の猶予に関する代理権を付与したことを認めるに足りる証拠はないと指摘。


原告は、被告が、原告に対し、平成16年12月28日、本件奨学金の返還の猶予について問い合わせたり、平成17年9月28日頃、負債の証明書を添付して免除申請をするなどした際、返還時期について何らの異議を述べておらず、妻がした返還の猶予願いについて追認したものである旨主張。

しかし、原告は、被告が原告に対して送付したとする書類を書証として提出しておらず、個人メモに記載された事実を直ちに認定することはできない。そして、仮に、被告が、その頃、原告に対し、電話を架けたことがあったとしても、被告が、妻が行った返還の猶予について認識していたものと認めることはできず、これを追認したものということはできないと排斥。

 

表見代理も否定

原告は、被告が、妻に対して、金融機関に対する支払猶予についての代理権を付与していたから、民法110条の表見代理が成立する旨主張。

しかし、妻が、返還の猶予を申し入れる理由が被告が実刑判決を受けたというだけでは、原告担当者において、妻に本件奨学金の返還の猶予についての代理権があると信ずべき正当な理由があるとはいえないと排斥。

 

以上によれば、平成12年12月からの本件奨学金の返還が平成16年12月からの返還に繰り延べられたと認めることはできない、として、一部の消滅時効援用を認め、残金のみ請求が認められると判断しました。

 

 

 

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