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Q.給料ファクタリングの最高裁判断は?

給料ファクタリングについては、刑事裁判ではありますが、最高裁で貸金と認定されています。

それ以降、大々的に給料ファクタリングをビジネス展開する業者はほぼなくなりました。

このロジックだと民事でも貸金が無効とされる可能性が高いですが、そもそも有罪とされる行為は控えるようになったものと認められます。

今回は、この最高裁の判断、最高裁判所令和5年2月20日決定を解説します。

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2024.6.25

 

支払督促の後の裁判

この事件は、刑事事件で、給料ファクタリングを貸金業として有罪と判断したものです。

「給料ファクタリング」と称する取引を行っていた被告人に関する裁判です。

被告人は、登録を受けずに業として969回にわたり、合計504名の顧客に対し、口座に振込送金する方法により貸付名目額合計2790万9500円を貸し付けました。

この行為は貸金業法違反(同法47条2号、11条1項、3条1項)に該当するとされました。

さらに、被告人は33回にわたり、経営している法人名義の普通預金口座に振込送金で受け取る方法により、法定の1日当たり0.3%の割合を超える利息合計113万5890円を受領したことで出資法違反も問われました。

 

「給料ファクタリング」と称して行っていた取引は、労働者である顧客から賃金債権の一部を額面額から約4割引きで譲り受け、同額の金銭を顧客に交付するものでした。契約上、使用者の不払のリスクは被告人が負担するとされていたが、顧客は賃金債権を買い戻すことができ、実際には全ての顧客との間で買戻し日が定められていました。

 

最高裁判所の判断

高等裁判所も給料ファクタリングを貸金と認定し、有罪判決。これに対して上告がされました。

最高裁は上告を棄却。

同じく給料ファクタリングは貸金だと判断したものです。

 

 

給料ファクタリングの取引認定

被告人が、「給料ファクタリング」と称して、顧客との間で行っていた取引は、

被告人が、労働者である顧客から、その使用者に対する賃金債権の一部を、額面額から4割程度割り引いた額で譲り受け、同額の金銭を顧客に交付するというもの。

本件取引では、契約上、使用者の不払の危険は被告人が負担するとされていたが、

希望する顧客は譲渡した賃金債権を買戻し日に額面額で買い戻すことができること、

被告人が、使用者に対する債権譲渡通知の委任を受けてその内容と時期を決定すること、

顧客が買戻しを希望しない場合には使用者に債権譲渡通知をするが、顧客が希望する場合には買戻し日まで債権譲渡通知を留保することが定められていた点を指摘。

そして、全ての顧客との間で、買戻し日が定められ、債権譲渡通知が留保されていた点にも言及。

 

給料ファクタリングは貸金と認定

本件取引で譲渡されたのは賃金債権であるところ、

労働基準法24条1項の趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同項が適用され、使用者は直接労働者に対して賃金を支払わなければならず、その賃金債権の譲受人は、自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないことから、被告人は、実際には、債権を買い戻させることなどにより顧客から資金を回収するほかなかったものと認定。

また、顧客は、賃金債権の譲渡を使用者に知られることのないよう、債権譲渡通知の留保を希望していたものであり、使用者に対する債権譲渡通知を避けるため、事実上、自ら債権を買い戻さざるを得なかったものと認定。

そうすると、本件取引に基づく金銭の交付は、それが、形式的には、債権譲渡の対価としてされたものであり、また、使用者の不払の危険は被告人が負担するとされていたとしても、実質的には、被告人と顧客の二者間における、返済合意がある金銭の交付と同様の機能を有するものとしています。

このような事情の下では、本件取引に基づく金銭の交付は、貸金業法2条1項と出資法5条3項にいう「貸付け」に当たると結論付けています。

 

 

 

貸金業の規制

貸金業を営む者は、営業所または事務所の設置に応じて内閣総理大臣または都道府県知事の登録を受ける必要があり(貸金業3条1項)、登録を受けずに貸金業を営むと罰則が科せられます(同11条1項、47条2号)。

また、出資法5条3項は、金銭の貸付けを行う者が年109.5%(1日当たり0.3%)を超える利息の契約をし、受領した場合、罰則を規定しています。

そこで、本件では、被告人が「給料ファクタリング」として行った取引が、貸金業法や出資法にいう「貸付け」に該当するかが争点となりました。

 

金融庁の見解

金融庁は、給与ファクタリングについて、「賃金債権の譲受人から労働者への金銭の交付および回収を含めた資金移転のシステムが構築されているため、経済的に貸付けと同様の機能を有している」との見解を示していました。

民事裁判例でも、給与ファクタリングは貸金業法や出資法にいう「貸付け」に当たるとする判断が集積しています。

本決定もその延長上にあり、高利規制の脱法を許さない姿勢を明確にしものといえます。

 

違法貸付と不法原因給付

今回の最高裁決定は貸金業法・出資法違反が問われた刑事事件です。

給与ファクタリングが貸金業という考え方は、民事裁判でも適用されるものでしょう。

その場合、貸金の効力については、貸金業法の定める年109.5%を大幅に超えていることから無効と判断される可能性が高いです。

公序良俗違反の程度が甚だしい場合には、不法原因給付の規定により、業者が顧客に交付した金員を不当利得として返還請求できないことになりそうです。

ヤミ金融などは最高裁でもこの理論を採用しています。

 

事業者ファクタリング

本決定は給与ファクタリングに関する刑事事件の判断です。

事業者の売掛金等の債権を目的とするファクタリングは対象外とされています。

しかし、事業者ファクタリングについても、債権の真正な売買か担保付きの金銭消費貸借か問題になる事案は増えています。

下級審の裁判例も出てきています。

 

給与ファクタリングのその後

このよな判決を受け、給与ファクタリングはほぼ消滅。

しかし、その後は、「後払い現金化」などの新たな類似ビジネスが発生しています。

 

 


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