日本保証の差押ケース紹介
裁判例
日本保証の差押
日本保証の差し押さえについての話です。
日本保証が、旧・武富士時代に判決をとっていて、それを吸収分割により承継、日本保証から差押えを受けている場合に、一部が違法になるケースがあるという判決の紹介です。
武富士は倒産し、その時点で武富士に債務があった場合、通常は、日本保証が承継しています。
武富士時代に、お金を返せなくて裁判所の判決が出ていると、それも日本保証が承継していることが多いです。
そして、その後、日本保証から差し押さえをされているという場合にはチェックをしてみると良いかもしれない判決です。
東京高裁平成27年4月20日判決。
武富士からの債権譲渡通知が必要
武富士の倒産により、吸収分割で債権を承継した日本保証は、債務者への対抗要件として、債務者に対する債権譲渡通知等が必要とされています。
債権譲渡の場合の譲渡通知は、債権者が変わったときに、旧債権者からしないといけないとされています。
債務者からすれば、本当に債権者が変わったのか分かりません。
勝手に新・債権者が請求してきたら、本当に払ってよいか怪しいです。
そこで、旧・債権者から「債権はここに譲渡しましたよ」という通知が必要とされているのです。
債務者が、債権譲渡自体を認識していて承諾した場合には、この通知は不要です。
執行文の付与を争う
このような債権譲渡通知がないにもかかわらず、武富士時代の判決を使って差し押さえをしようとするときに、強制執行手続きでは、執行文の付与という手続が先に必要です。
この債権譲渡通知という対抗要件を備えていないにもかかわらず、執行文の付与をしていはいけないとして、債務者が争ったのが、今回の裁判です。
裁判所の結論としては、その後に債権譲渡通知はされたものの、その効力は、さかのぼって有効になるわけではないので、譲渡通知前の差押えは無効と判断しています。
このケースでは、
給料の差押えだったので、譲渡通知以前に支払期日が来ていた給料分には、差押えの効力は及ばないとされました。
裁判所の判決内容
支払期限を区切って差押を否定した主文は次のような記載になります。
「株式会社Bと控訴人間の東京簡易裁判所平成20年(ハ)第92024号事件の第1回口頭弁論調書(判決)について,同裁判所書記官が平成25年5月14日被控訴人のために執行文を付与した執行力ある正本に基づき被控訴人が別紙差押債権目録記載の債権に対してした強制執行(名古屋地方裁判所豊橋支部平成25年(ル)第374号)のうち,支払期が平成26年3月19日より前に到来済みの債権に対するものは,これを許さない。」
理由は次のとおり。
「1 争点1(執行文付与時点において,Bから被控訴人への債権承継は明白であったか)について
(1) 法27条2項は,債務名義に表示された当事者以外の者を債権者又は債務者とする執行文は,その者に対し,又はその者のために強制執行をすることができることが裁判所書記官若しくは公証人に明白なとき,又は債権者からそのことを証する文書を提出したときに限り,付与することができる旨規定している。
そして,法27条2項の「強制執行をすることができる」とは,実体法上権利を行使し得ることを前提とするものと解されるところ,会社の吸収分割においては,吸収合併とは異なり分割会社は解散せず法人格が存続するにもかかわらず,承継されるのはあくまでも会社分割の対象とされた権利義務に限定されること,吸収分割契約書には,分割会社の個々の財産につきそれが承継の対象になるか否かまでは必ずしも記載されない上,吸収合併のように,吸収合併の登記を第三者に対する対抗要件とする権利の画一的処理を目的とした規定(会社法750条2項)も設けられていないことなどからすれば,吸収分割により承継した債権を債務者に対抗するためには,一般の債権譲渡の場合と同様に対抗要件を具備する必要があると解するのが相当である。
執行文の付与を受けるについて,執行債権者が対抗要件の具備まで立証する必要があるか否かについては,見解が分かれ得るものの,一般的な立証責任の分配においても対抗要件の具備は債権者に立証責任があること,法27条2項は,簡易な手続で承継執行文を付与する手続であること,債務者対抗要件具備の証明は比較的容易であることなどに鑑みれば,執行債権者は承継執行文付与の手続に際し,債権承継通知ないし執行債務者の承諾を証明する書面等により,通知・承諾の事実を証明することを要するものと解するのが相当である。したがって,被控訴人が対抗要件を具備していなかったことは,承継執行文付与の要件とは全く無関係である旨の被控訴人の主張は採用できない。
(2) 本件債務名義については,強制執行をすることができることが執行文付与機関である裁判所書記官に明白であるとの理由により承継執行文が付与されている(甲2)が,その承継執行文の付与に際しては,債務者対抗要件に係る証明はなく,その証明がなくても被控訴人が強制執行をすることができることが執行文付与機関に明白であったとはいえないから,本件債務名義に係る執行文の付与は,その要件を欠くものであったというべきである。
2 争点2(追加的な債権譲渡通知により瑕疵が治癒された場合,遡及的に手続が適法となるか)について
(1) 上記1のとおり,本件債務名義に係る承継執行文の付与は,その要件を欠くものであったところ,執行文付与に対する異議事由として債務者対抗要件の欠缺が主張された以上,同対抗要件を備えるまでは債権者は債務者に本件債権の承継を対抗できなかったのであるから,その前に,承継執行文を付与された本件債務名義に基づきされた具体的執行行為は,強制執行することができない者によってされたものといわざるを得ない。
(2) 被控訴人は,仮に債務者対抗要件の具備が問題となるとしても,債権承継通知により当該瑕疵は治癒しており,控訴人の請求には理由がない旨主張する。
そこで検討するに,執行文付与に対する異議の訴えは,債務者が,債務名義に表示された条件が成就したものとして執行文が付与された場合における条件の成就の有無,又は承継執行文を付与された場合における債務名義に表示された当事者についての承継の存否について,訴えの形式によって争うことを認めたものであるところ(法37条,27条),その目的は個々の執行力ある正本ないし執行文の効力の排除にあると解され,異議事由の有無は,原則として,口頭弁論終結時を標準としてこれを定めるべきであり,たとえ執行文付与の要件を充足しないまま執行文が付与されたとしても,異議の訴えの口頭弁論終結時までに当該要件を充足すれば,その執行文の付与及びかかる執行力ある正本に基づく強制執行を不許とする必要はないものと考えられる。そして,なるほど口頭弁論終結時までに,強制執行に着手されていなかった場合はもちろん,強制執行に着手されていたとしても,建物明渡し等の強制執行の場合には,口頭弁論終結時までに要件が充足されれば,当初の執行文付与や具体的執行行為を排除してその強制執行をやり直すまでの必要はないと解される。しかしながら,本件のように債権者が債務者対抗要件を備える前に,既に支払期が到来した債権が差し押えられていた場合には,当該債権に対する具体的執行行為は,要件を欠いたままされたことに変わりはなく,後に債権者が債務者対抗要件を具備したことにより遡ってその要件があったことになるわけではない。すなわち,本件では,本件承継通知がされる前に,執行文が付与された執行力ある本件債務名義の正本に基づいて給与債権の差押えがされており,その後,本件承継通知がされたことによって,遡って同通知より前に支払期が到来した給与債権に対する差押えが有効にされたということは困難である。
そうすると,債務者対抗要件を備える前に支払期が到来した給与債権に対する具体的執行行為は,債務者に対して強制執行ができなかったにもかかわらずされたものといわざるを得ず,かつ,その強制執行は終了していないから(上記第2の2(6)・(7)),その限度で,執行文が付与された債務名義の正本に基づきされた本件強制執行を排除するのが相当である。執行文付与に対する異議の訴えについて,このような一部の執行力の排除あるいは具体的執行行為の排除が認められるか問題となるが,既に開始された強制執行手続の安定性も考慮し,必要な限度で具体的な執行行為を排除することは許されるというべきであり,請求異議訴訟においては,現に,債務名義の一部についての排除や,具体的執行行為の排除も認められているところである(大判昭13年5月28日判決全集5巻12号36頁,東京高決昭和30年3月23日東高時報6巻3号45頁等)。
(3) 執行文付与における瑕疵の治癒に関して,①最高裁昭和30年7月22日判決(最高裁判所民事判例集9巻9号1143頁),②大審院昭和16年7月22日判決(法律新聞4721号993頁,甲14),③大審院昭和17年11月17日(民集21巻1121頁,甲15)及び④札幌高裁昭和30年1月20日判決(高等裁判所民事判例集8巻1号27頁)は,瑕疵の治癒を認め,あるいは認めることに関する判示をしているものの,上記①は,必ずしも本件のように既にされた強制執行について治癒を認めた事案であるとはいえないし,上記②は,違法な執行文付与(条件成就していないのにしたとして付与)による強制執行(建物明渡)による損害賠償請求事案において,現実に強制執行をする前に条件が成就し瑕疵が治癒されたものであり,執行をしない間に条件が成就した場合には瑕疵が治癒する旨判示している(甲14)。また,上記③も,条件成就執行文付与当時は条件が成就していなかったが,強制執行当時は条件が成就していた事案である(甲15)。さらに,上記④の判決は,異議訴訟の口頭弁論終結時までに条件が成就すれば,執行文の付与と強制執行は許容される旨判示されているものの,当該事案では,条件が成就したものとは認定されていないから,瑕疵の治癒が認められた事案ではない。したがって,上記(2)の判断は,上記①ないし④のいずれにも反するものではない。なお,上記(2)のとおり,本件においては,本件強制執行により差押命令送達日以降に支払期が到来する給与債権が差し押えられているから,差し押えられた債権の支払期が債務者対抗要件が具備された時点より前か否かによって債権者がその債権に強制執行できたか否かを判断せざるを得ないというべきである。
(4) 以上によれば,本件で,要件を欠いた状態で執行文が付与された執行力ある債務名義の正本に基づき,既にされた本件強制執行の具体的執行行為のうち瑕疵があるものについては治癒されず,当該部分の執行は排除せざるを得ないが,他方で,その余の部分も含めて執行文の付与ないしそれに基づく強制執行を取り消す必要はないのであるから,上記の限度で執行を排除すれば足りるというべきである。
これを具体的にみると,控訴人が本件債務名義に係る債権について債務者対抗要件を具備したのは,本件承継通知がされた平成26年3月19日であることは明らかであり,それより前にされた強制執行は対抗要件を具備していない状態でされたと(ママ)ものと認められる。そうすると,既にされた本件強制執行のうち,債務者対抗要件を具備するより前に係る部分(支払期が平成26年3月19日より前に到来済みの債権に対するもの)の執行を排除すれば足りるというべきである。
したがって,その限度を超える強制執行又は既にされた具体的執行行為の不許を求める執行文付与に対する異議としての主位的請求,予備的請求1及び3は理由がなく,また,上記と同様の事由は請求異議事由とはならないと解される上,上記の限度を超えて強制執行又は具体的執行行為の不許を認める必要はないから,請求異議としての予備的請求2及び4はいずれも理由がなく,執行文付与に対する異議としての予備的請求5は理由がある。」
判決の分析
この判決の分析をしている文献のなかには、すでに武富士の倒産手続は終了しているため、今から譲渡通知をすることは難しいのではないか、そうだとすると、譲渡通知がされていない件では、日本保証は差押ができなくなるのではないかという意見もあります。
もちろん、日本保証時代に判決を取られていたら差押は有効ですが、
旧武富士時代に判決をとられているもので、差押えをされる、されたという人は、譲渡通知の有無を確認したうえで、争う余地があるかもしれませんので、チェックしてみてください。